郷土史探訪(14) 宮武 紳一
ト・ウム・ケシの伝説と遺跡を訪ねて「富岸町」
トンケシ町の「兎と津波」の伝説は、登別に残る貴重なウエペケル(おとぎ話)の一つです。
トンケシを含む幌別の昔の人達は、海に風が吹いて荒れてくると白波がたってくるので、これを
イセポ・テレケ(兎が飛ぶ)といい、波立つ白波の様子を兎が走っているようであることを表現しています。
また、赤ん坊をパツカイ・タラという子負いの縄で背におぶり、海岸で子供をあやしながら、岸によせ
白く砕ける波をみせて歌うイフムケ(子守歌)には、「海辺でウサチャン、ぴょんととぶ、ぴょんととぶ」
と繰り返しながら歌い聞かせる歌が幌別にありました。
ポン・ウパシクマと呼ばれる金成マツさんの説話、伝承にも次のような話があります。
「昔、兎は今のように小さいものでなく、鹿のように大きく、呪術にも長じていたので
呪術によって悪いことをしておりましたが、オイナ神が「小柄(こづか)」を最上の家宝として
もっていたのを知ってあkらは、いつかすきをみて小さな刀の小柄を盗んで
やろうと思っていました。
ある日、灰をかためて小柄をつくりオイナ神の小柄とすりかえて一人で喜んでいたところ、
オイナ神は兎の悪戯と知って兎を捕えて切り刻み、大きい鍋一杯にして煮てしましました。
ところが、その一片の肉が鍋をもぐって逃げ出したのでオイナ神は再び捕えて、それを小さな兎にし、
また兎が灰で作った小柄で鼻を切ったので兎唇といわれる三つ口になり、小柄の灰が
ぱっと散って兎の眼に入ったので赤く、盲になってしまいました。