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「北海道幌別漁村生活誌」

第十八章 遊びと唄

一 遊び

 1 歌留多
 幾日も凪が續いた後で時化が來ると、若い者連中は何を措いても、歌留多をしなければ納まらない。
 「今夕六時より平澤氏宅に於てカルタ會を催す。會費二十銭。参戦を待つ。」
といふ様な簡単な廻狀が廻ると、六時半頃、あでには十人位の顔觸が揃ふ。
 こゝに云ふ歌留多とは勿論百人一首のことであるが、東京のそれとは大いに趣を異にしてゐる。
 讀札は歌を紙に印刷した普通のものであるが、取札は正月の切餅大の大札で、 主として朴の木が用ゐられてゐる。綺麗に鉋をかけた白木に、墨黒々と、草書で歌の下の句が 書かれてある。これは當地方では下の句だけが讀まれるからである。
 ゲームは殆んど源平戦ばかりである。一組普通三人で、その内の一人は三十枚位を 受持つて守備の任に當る。他の一人は六七枚位を持つて、敵を攻撃する。殘つた一人は 攻守兩人の間に坐つて、味方を擁護しながら戦ふのである。
 組の名稱には、血櫻組、隼組、雷電組など物凄いのがある。これ等が五組も六組も集まつて リーグ戦をする時などは、午後六時頃から始つても、翌朝二時か三時でなければ終らない。
 人數が揃ふと抽籤で戦ふ組を決める。そして殘りの組のうちから、讀手と審判を選ぶ。最初の札 を空札(からふだ)と云つて、上の句から讀む。そしてそれにつづいた次の札から取り始めるのである。 空札の時は歌留多にない歌が讀まれることも多い。
 東海の小島の磯の白砂に・・・
と啄木の歌を讀むインテリもあれば
 からからと火葬場に殘りし親父の睾丸
  をかしくもあり悲しくもあり
などと變な歌を讀む者もある。空札を讀み終つたら、その下の句をもう一度繰返して次の歌の 下の句へ續ける。
例へば空札の歌が
  東海の小島の磯の白砂に
   我泣き濡れて蟹と戯むる
であつたら、次は
  我泣き濡れて蟹と戯むる

   やくやもしほの身もこがれつゝ
と讀み、次はそれを更に上の句に直して
  やくやもしほの身もこがれつゝ

   乙女の姿しばしとどめむ
等々々の如く、讀み進めるのである。
 悪戯讀みは空札の時ばかりではない。
 山の奥さん鹿に追はれた(山の奥にも鹿ぞ啼くなる)
 乙女のチャンコ火箸で突つつく(乙女の姿しばしとどめむ)
 いくよ姉さん今晩は(いくよねざめぬ須磨の關守)
 ながなが小便五銭の罰金(ながながし夜をひとりかもねむ)
等々、いろいろにもぢつて讀む。それでも取手は最初の三字位を聞いただけで、 もう札を飛ばしてしまふ。猛者ばかりなので間違ふ様なことはない。
 随分腕達者な者が多いので、戦もなかなか烈しい。節くれ立つた鐵腕が 氣合と共に突出されるので、弾かれた札が三間も横へすつ飛んで窓ガラスを 破つたり、絡み合つた手の下で厚さ二分の木札が二つに割れたりすることも 珍しくはない。割れた札は裏から古葉書を貼つてすぐ使用する。



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 こんな凄まじい戦ひなので、手の甲や指には生傷が絶えない。傷いた者は 「名譽の負傷者」として、皆にもてはやされる。
 皆が戦ひ疲れた頃に茶菓が出る。この集りの中には必ず三四人の娘が混つてゐるので、 それ等が接待に當る。夏季には菓子類が多いが、冬季は主としてヨカンベが出る。ヨカンベとは酒粕 を解かして砂糖を入れて沸かしたものである。眞赤に燃えたストーヴの上に、大釜で沸々と湯氣を 立てゝゐて、それを圍んで、皆は手柄話に花を咲かせながら、大きな飯茶碗で、代わる代わる呑みつづける。
 それは、お正月にお座敷で行儀よく紙の札を並べて、上の句を讀んで下の句をとる都の人々には、 想像もつかないものである。當地方での歌留多は最も男性的な遊びの一つに數へることが出來る。それは 歌留多で遊ぶのでもなく、歌留多を戦はすものでもない。歌留多で闘ふのである。
 「人に知られでくるよしもがな」「人に知られてくるよしもがな」と讀んだり、「人知れずこそ 思ひそめしか」を「人知れずこそ思ひそめしが」と讀んだりして、無學な所を遺憾なく發揮する者も多い。
 また歌留多の場所では種々な綽名が生れる。
 いつも物凄い腕前を見せてゐる者に「近藤勇」や「機關銃」「蟹將軍」などがあり、いつも負けてゐる 者に「馬占山」「脱線親父」など香しからぬものもあるが、中には「乙女」などとしほらしい綽名の男も ある。この男は下手の横綱であるが、「乙女の姿しばしとどめむ」だけは、どんな遠方にあっても脱兎の如く 飛出して兩手に抱込み、曾て人手に渡したことがない、といづ愛嬌者である。

 2 トランプ
 トランプは主として女や子供の遊びに用ゐられてゐる。
 男達が歌留多を戦はして、大騒ぎに騒いでゐる時など、次の部屋か、反對側の爐縁には、 歌留多のグループから除かれた子供等に、歌留多の下手な娘達が混つて、時々かん高い 笑聲をあげてゐる。そこへまた歌留多の方から敗軍の將達が割込んで來たりして、なかなか 盛んになる。
 遊び方は、三十一競技、ページワン、ダウト、ジョーカー抜き、等々が主なものである。
 こゝでも歌留多の時の様に、「コール」を「ゴール」と言つたり「パス」を「バス」などと、 なかなか傑作が多い。

 3 ほうびき
 ほうびきは寶引から來たものらしい。
 これは正月頃にだけ行はれる遊びで、其他の季節には殆んど見られない。
 これを行ふには、三尺位の細紐を、人の數だけ揃へる。そして紐の一本には、一端へひょうたんか 空のインク瓶を結んでおく。これをどつぺといふ。
 正月の夜など、炬燵を圍んでこれを初める。
 先づ親になつたものが、片方の手で紐全部の一端五寸位の所を握り、それを一卷手に卷いてから、 長い方の端を、車座の眞中へ投げ出す。さうすると人々は思い思いに好きな紐を握る。みんなが取つた 後で、殘つた一本を親が取る。同時に紐の根本を握つていた手を放してみんなに紐を引かせる。 そしてどつぺの着いてゐる紐を引いた者が勝つのである。
 お盆に山と盛つた蜜柑や、菓子を、かうして勝つた者が一つづゝ取るのである。
 ほうびきは、以前子供や女の遊びであつたのだが、近年は大人ばかりが男女混つてこれを遊び、 子供は絶對加へられない。

 4 花札
 花札は、極少數の女を加へて、主として中年以後の男達に遊ばれる。
 昔は靑年達の間にもこの遊びは盛んであつたが、だんだん向上するに従つえ、歌留多やトランプに 轉向する者が多くなり、花札は靑年達にかへりみられなくなつた。
 花札も、正月を中心に冬季を主として遊ばれるものであるが、夏でも、時化つづきの時などよく 見受けることがある。
 花札には、トッパ、七(なな)たん、よしよし、三枚、さんちんざらし等々、いろいろな遊び方が あるが、その方法の説明は徒に紙數を費すのでこゝでは省く。



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二 唄 囃子 口遊び

 大漁のあつた日の夜など、必ず酒が出る。爐縁を圍んで、赤銅色の逞しい腕から腕へ、 盃が跳ぶ。そして宴酣になれば、いろいろな唄や口遊びなどが、それからそれへと、續け さまに飛び出して來くる。

 〇安來節
  わたしや 幌別 荒海育ち
    浪も荒いが、氣も荒い

 〇囃子
  野つく 山つく 踵(あくと)さ糞つく
    隣の狗來て がんぢと齧つて
     アテテコ テンテコ テンテコ テンテンテンテン

 〇小原節
 物の初まり一とも云ふ
  馬に積むのは二(荷)とも云ふ
 女の大役三(産)とも云ふ
  小供の小便四(シー)とも云ふ
 石を並べて五(碁)とも云ふ
  侍取るには六(禄)とも云ふ
 物を置いて金を借りるは七(質)とも云ふ
  貧乏するのは九(苦)とも云ふ
   ハア 火箸を焼いて水に入れると      オハラ 十(ヂユウ)と云ふ

 〇囃子
  ハア 兎の馬鹿野郎 十五夜の月見て
    火事だと思つて 尻足ぶち上げて
   ぼんぼん ぶつ跳ねる
    あとから もく犬 もつくらさつくら

 〇鱈釣くどき節
 オイヤサエー
 オイヤいたらないでや 峠の名主
 二に二山貉コの澤か
 三に境コさ棒杭コ立てて
 下(しも)さ下(さが)りや恵山(ゑさん)のお山
 上(のぼ)り三里に下(くだ)りも三里
 三里下りや椴法華(とどほつけ)村よ
 嫌だ稼業(しようぱい)鱈釣稼業
 僅か給料(きうだい)五兩と二分で
 鶏と同時に早起きなさる
 朝に起きれや朝火を焚いて
 朝火焚付けてお飯鍋(めしなべ)かけて
 家内(やうち)騒げば自づと騒ぐ
 ちよいと漕(か)き出すチチバナ沖さ
 此處は何處よと船頭衆に訊けば
 此處は昔の鱈釣場所よ
 三十三枚さらりと配(は)いて
 恵山お山の出る雲見れや
 ほかた雲コはそろそろ上げる
 昔年寄(とそり)の聲を聞けば
 ひかた風とは人とる風よ
 さあさ船頭さん支度をなされ
 そこで船頭さん支度をなさる
 白の欅に白鉢卷で
 三十三枚そろりと取りや
 運の悪さに鯳三本鰈三枚
 そこで押したり漕いたり サーエー



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 〇漁業更生旅笠道中
 東海林太郎の「旅笠道中」が流行した頃、次の様な替唄が濱の若い者達の 間に唄はれた。膽振水産會々長齊藤主計氏の作と云はれてゐる。

 一 雪が解けたら俺たの春よ
   沖に鴎がのどかに啼いて
   やがて大漁網おろし
 二 櫻咲くぞえ大助(おおすけ)鱒(ます)よ
   緋小緋海色變へて
   大量旗立つ鵡川(ムカワ)沖
 三 どうせやるなら漁師をおやり
   浪と戦ふ海國男子
   鰤も鮪も掴み取り
 四 浪のまにまに寄せ來る鰮
   䀆きぬ大漁俺らの主よ
   獲つておくれよたんまりと

 〇虱の死刑の申渡し
 肩先縣背筋縫目村、襤褸屋(ぼろや)垢太郎の長男虱之助、その方は褌十文字 に忍び込み、巳(すで)に大金を奪はんとする所、爪役人に覺られ、この野郎太い野郎と、手の 平(ひら)十文字に載せられ、巳(すで)に火炙りにかけらるゝ所、罪一等を減ぜられ、爪役人を 以て潰し放し。
 〇虱の申譯
 倅右衛門右衛門虱之助、ぼつたぼとうやつづれえやにたかる段、この頃は騙るに就いて 金襴緞子大目さんとめ迄も、恐れなくたかる段、旦那様の衿元へ登りて花見宴饗を致す大體 の不届者、爪役人を以て一々御詮議を致す、何程の御議を蒙つても苦しくは御座無候。

 〇屁の申譯
 へーへーと隔てりや隔てるやうなもの、これも我身から出ると我子同然のもの、腹空いて よし、病きれてよし、尻(ケツツ)のつりこみ拂つてよし。
 〇
 猫にマタタビ南部衆(なんぶしゆ)にメノコ
   (うつかり傍へ寝せておかれない)
 〇
 譬と豆腐汁投げ所(どこ)無い
 〇
 眼病者(めやみ)と蕎麦練(そばね)りネる程よい
   (寝ると練るとを掛けたシヤレ)



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三 アイヌに傳へられた日本の口遊び

 (我々よりも三四代前に、村から村へ渡つて歩く旅のシャモが、これを傳へたのだといふ。 旅のシャモとだけで、如何なる種類のものか判然としないが、唄の言語から考へて、東北地方から 來た遊藝人であつたらしい。文句は相當に訛つてゐるらしいが、要所要所の意味は通つてゐる様に 思ふ。上段には原文を片假名で表記し、下段に於てその意味を出來る限り判讀して見ようと思ふ。)

 カマクラノモンチェンノ      鎌倉の門前の
 アンヅマタロオノムスコハ     吾妻太郎の息子は
 シャクシウツメンチンテ      杓子打つ名人で
 シャクシウツトンコハ       杓子打つ道具は
 ノミニカンナニソリカンナ     鑿に鉋に反(そり)鉋
 シッカラカイッテシッチョウテ  引絡(ひつからが)ひて引背負つて
 イチノサカモケアンカリ      一の坂も蹴上り
 ニイノサカモケアンカリ      二の坂も蹴上り
 サンノサカノサカナカテ      三の坂の坂の坂中で
 コシヲヂックラヤスマヘテ     腰をヂックラ休ませて
 アタルヤホトルヤミイタレバ    邊りやほとりを見たれば
 イチニイタヤニニヤナンキ     一にイタヤ二に柳
 サンニサクラヨンヂノキ      三に櫻楊枝の木
 ゴヨウマツノムクノキ       五葉松に椋の木
 ブッカケタデヤブンナノキ     ぶつかけたでや山欅の木
 キッカケタデヤキリノキ      きつかけたでや桐の木
 ハンノキナントモアイマザッテ   榛の木なども相雜つて
 シャクシキモチョンブンテ     杓子木も丈夫で
 シャクシヲサンチョウフバタイテ  杓子を三丁引叩いて
 オサカノマチヘタソウカ      大阪の町へ出さうか
 チョウノマチヘタソウカ      京の町へ出さうか
 チョウノマチヘタシタレバ     京の町へ出したれば
 チョウザドオノシロムクト     長者殿の白尨と
 チョウザドオノクロムクト     長者殿の黒尨と
 クワンクワントホエタレバ     クワンクワンと吠えたれば
 サッテモニックイイヌッコダ    さても憎い犬ッコだ
 イヌノコンバナカアケルカ     犬の小鼻缺けるか
 シャクシノコンバナカアケルカ   杓子の小鼻缺けるか
 ボンクラボントナゲタレバ     ボンクラボント投げたれば
 シャクシノコンバナカケナイデ   シャクの小鼻缺けないで
 イヌノコンバナカケタ       犬の小鼻缺けた
 シャクシマイナミッサイナ     杓子うまいな見さいな

 〇

 ロクンカツノヒンデリニ      六月の旱に
 チャワンチャワンダカニントノ   チャワンチャワンだ蟹殿
 ホッホラホ ホッホラホ      ホッホラホ ホッホラホ
 ホッホラホトハンテキテ      ホッホラホとハシデ來て
 カラスナントノエセントリ     鴉などの似而非鳥
 パホリパホ パホリパホ      パホリパホ パポリパホ
 パホリパホト トンデキテ     パホリパホと飛んで來て
 カニントノノコオラヲ       蟹殿の甲羅を
 ホッキリホ ホッキリホ      ホッキリホ ホッキリホ
 ホッキリホト ツッツイタレバ   ホッキリホと啄(つつい)たれば
 アンマリイカイタテヤカラストノ  餘りイカイだでや鴉殿
 オマイモイキモノオレモイキモノ  お前も生き物俺も生き物
 オヤチョンタイノハサミッコ    親兄弟の鋏コ
 サヤッコカラットハントシテ    鞘コカラッと外して
 キリキリ キリキリ        キリキリ キリキリ
 キリキリットシメタ        キリキリッと締めた
 カニマイナミッサイナ       蟹うまいな見さいな



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四 子供の遊びごと

 〇ミミッチョ遊び
 街の子供等が、驛の待合や、店先で、石蹴りや、鬼ごつこをして遊ぶ様に、山の 子供等が、牧場の柵に攀ぢ登つて、それを足場に跳び乗つて遊ぶ様に、濱の子供達は、 きらきらと果てしなく續く黒砂と、白い齒を見せて岸に戯れる小波とが友である。
 併しそれも秋から春へかけては、波が荒かつたり、冷い風や雪に邪魔されてゐるので、 本當に濱に親しむことの出來るのは、盛夏の候に限られてゐる。
 さんさんと降りそそぐ眞夏の陽の光を、眞黒な體一ぱいに浴びながら、裸の子供達は 海豹の群の様に、熱い砂の上に寝そべつてゐる。
 そして、それ等の誰もが皆、砂へ小さな穴を掘つて、その谷底へ荏胡麻(えごま)粒 位の大きさの眞黒な蟲を放して、
 「ミミッチョ、ミミッチョ、お前のお父っちゃん死んだから、穴掘つて埋けれ埋けれ!」
と云ひながら、谷底から這ひ上らぬ様に兩手で塀を拵へてゐる。
 ミミッチョはけんめいに攀ぢ登らうと努力するが、坂はいつも中腹からさらさらと 崩れて、その度にもとの谷底へ轉げ落ちる。四度、五度、同じことを繰返すうち、 ミミッチョも遂には諦めて、せつせと坂の中腹を掘つて砂の中に潜つて行く。
 子供達はそれを見て喜びながら、
 「ミミッチョ、ミミッチョ、お前のお父っちゃん死んだから、穴掘つて埋けれ埋けれ!」
と簡單な節をつけて歌ふ。
 
 〇軍艦遊び
 陽の光と砂の熱で體が暑くなつてくると、子供達は濱へ行つて軍艦遊びを初める。
 軍艦を拵へるには、二三人共同でなければ出來ない。
 先づ足で飛行船形の舟型を砂上に畫く。そして、その線の上を、艪の方から表の 方へ、手早く砂を盛り上げて行くのである。砂は艦の内と外から盛り上げるので、中は 大きな穴になり、外は舷に沿うて溝になる。表は波に崩れ易いので、藁屑や、ゴモや、昆布の 屑などを積み重ねて、その上へ砂を盛る。
 かうして出來上つたら、大將を表にして順々に艦に乗込む。そして大きい波の來るのを 待つのである。
 交互に押寄せて來る波のうちでも、比較的沖の方から背を高くして來て、岸近くで 大きな口を開けて、がばつ!と噛みついて來るがつぱ折り、その姿(なり)に似合はず 力が無いのである。反對に、岸近くで急に頭を擡げて、ざざーつ!と押寄せて來る引波 (ひきなみ)は、人相(かほ)に似合はない底力を有つてゐる。
 軍艦を破損するのは、きまつて此の水量と水勢の豊かな引波である。
 
 波が艦の兩舷を崩しながら、ひたひたと押寄せては、何ごとも無くすうつと引いて 行くと、子供等は一斉に双手を空高く擧げて、
 「うわーつ ばんざい!」
 と、大自然を征服した歡びの聲を張上げる。
 併しこんな嬉しいことは長く續かない。時折豫想だもしない大波に襲はれて、一同は 頭から濡れ鼠になり、艦は跡形もなく消えてしまふこともある。
 こんな事に逢ふと、子供達はあつさり諦めて、潮水に濡れた體を、熱い砂の上に轉がして、 胡麻餅の様に砂にまぶれて暖まる。
 來る日も來る日も、こんなことを繰返してゐるので、赤銅色の肩や背の皮膚が薄く剥けて、 ひりひりと痛むのである。



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 〇いさだ掬ひ
 女の子には女らしい遊びがある。
 水につかつて遊ぶことに、いさだ掬ひがある。
 小さな波がさあーつと押寄せて來て、すうーつと引いて行く時に、裾をからげた 女の子が二人、手拭を兩方へ張つて、いさだの群を掬ひあげる。調子の悪い時には 一匹も獲れないが、運のよい時は一度に兩手で一ぱい位獲れる。
 獲つたものは、バケツか金盥に潮水を汲んで置いて、その中へ放しておく。澤山 溜つた頃に男の子達が來て、それを手掴みにして頬張る。口邊や指先などに附著したいさだが、 ぴちぴち跳ねてゐても、平氣でぶつぶつ音を立てながら食べてしまふ。
 十年程前に、房さんといふ六十歳位の跛の人がゐて、いさだ獲りを生業にしてゐた。
 凪の良い、天氣の良い日は、毎日渚に立つて、葡萄蔓の曲物に、晒木綿を張つた道具で、 跛を曳き曳き、房さんはいさだを掬つてゐた。 
 波の届かない程の所に、手桶が一つ置いてあつた。小さな波をニ三枚掬つて、いさだが 少し溜ると、それを持つて上つて、手桶の中へ溜めるである。
 桶から少し陸(おか)の方の、乾いた砂の上には、筵が二三枚敷いてあつて、筵には 炒米の様に乾燥したいさだが、くつ著いてゐた。
 房さんはこのいさだを、熬子(いりこ)にして賣つてゐたが、間に合はなかつたと見えて、 一年位で止めてしまつた。
 
 〇まゝごと
 いさだ掬ひの外は、乾いた砂の上でまゝごとをする。
 丁度、家の設計圖のやうに、砂の上に足で線を引いて、玄關・臺所・客間などを拵へる。 そして、ホッキ貝や女郎貝の殻を食器にし、昆布や、海苔や、濱豌豆などを御馳走にして遊ぶ。
 隣家が二三軒出來て、始終往つたり、來たりする。食器や漂流木(よりき)等の家具は、 潮水を汲んで來て洗ふし、足跡だらけになつた座敷は、雑巾掛けをするのだ、云つて、手で 綺麗に均(な)らして掃除する。
 男の子の遊びごとは其の日限りであるが、女の子の、特にまゝごと遊びは、何日も繰返される。 まゝごと遊びの出來ない雨の日など、湯殿や、縁側の區切りの線が、處々消えてゐて、雨水の溜つた ホッキ貝のお椀の中に、濱豌豆の實が三つ四つ揺れ動いてゐる家を見ることがある。
 
 〇凧揚げ
 凧揚げ遊びや、凧の種類などは、他地方と略。同じであるから、その詳しい説明は省いて、 こゝではただ違つてゐるものだけに就いて述べる。
 角凧(かくだこ)(繪や字を書いてある普通の四角凧)や奴凧の外に、かすべ凧といふのがある。
 これは十字形の骨へ、菱形の紙を張つて、下の角(かど)へ尾をつけただけの簡単なものであるが、 絲目のつけ方が、他のどの凧よりも難しい。十字形の横骨は、裏から弓形に絲で締めて、 風受けを良くする。そして、縦骨と下端へ表から絲目をつけて、絲目の上から三分、下から七分目 位のところへ、揚絲をつけるのである。
 かすべ凧は、その形がかすべに似てゐるので、この名がある。
 凧を揚げる時、唸りといふものをつける。
 唸りは、長さ五寸、幅二寸位の紙を、横骨を締めてゐる絲につけて、五分間(ごぶま)位に切込んで、 丁度暖簾(のれん)のやうにしておくのである。
 唸りをつけた凧を揚げると、障子の破れ目から風が吹込んだ時のやうな音を立てて唸る。 その音は相當大きく聞えるので、遠方の飛行機の爆音を聞くやうである。
 凧が中天に舞ひ揚つてゐる時、古葉書などの眞中へ小さい穴をあけて、揚絲の端をそこから 通して、紙を凧の方へ上げてやる。紙は風が强くなる度に、つゝーつゝーと絲を傳つて、凧の方へ近づいて行く。 すると又次の紙がその後を追ひ、第三、第四の紙が順々に綱渡りをして上へ登つて行く。子供等はこれを 「凧さ無線電信やるんだ」と云つてゐる。
 
 〇竹割
 竹割とは、竹を、幅五分長さ七八分位に、割つて拵へたもので、同じものが四本で、一組になつてゐる。
 竹割をして遊ぶのは、冬の屋内に限られてゐる。但し、冬の遊びと云つても、決して爐端や疉の上で するのではない。疉や茣蓙は傷がつくし、起つたり坐つたりして五月蠅いので、家では臺所か爐端に窓ぎは、 學校では廊下と、何れも板の間の寒い所である。
 十年位前までは、竹割は男の子の遊びで、たまに女の子などが混ると、「お轉婆する!」とて、母親達が 叱つたものであつたが、此頃は女の子が皆お轉婆になつてしまつて、到底竹割も、男の子の遊びから、女の子の 遊びに變つてしまつた。
 竹割をして遊ぶには、「ばつた」「なげ」「たち」「まい」「ねんじり」「かいし」「わり」「なげかいし」 「きり」と九種の變つたやり方があつえt、何れも同じことを十三囘繰返すのであるが、ただ最初の「ばつた」 だけは四囘でよろしい。「ばつた」が間違なく出來たら、更に「なげ」「たち」「まい」と順々に十三囘づつ 繰返しながら進むのであるが、途中で駄目になると次の者が交る。そして自分の番になると、前に駄目になつた 所からまた續ける。一人がやつてゐる間、他の者は休んでゐて、その人と一緒に聲を合わせて
 「一つ二つ、三つ四つ、五屋(いつや)の息子(六)(むすこ)さん、何(七)言つて、八釜(八)しい、 此(九)處らで、飛(十)んで、大(十一)阪、見(十二)物、一ぺん(十三)」
と節をつけて數へる。かうして最後の「きり」へ行くのであるが、「きり」は十三まで 數へて駄目にならない時は、そのまゝ百まででも二百まででも、續く限り續ける。
 勝負は「きり」の數の多寡によつて決まるのである。



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 〇ねつき遊び
 ねつきとは、直徑一寸位の太さで、長さ一尺位の一端を鋭く尖らせた棒切れのことで ある。ねつき遊びは、すなはち、この棒切れを使つて勝負をする遊びである。
 ねつき遊びをするには、粘土質の場所が一番よい。こゝへ直徑二尺位の圓を描く。 二人以上なら、何人でも出來る。
 先づ、じゃん拳で負けた者が、自分のねつきの尖つた方か、若しくは頭の方を握つて、勢 よく手裏劍のやうに投げて、粘土の上に描いてある圓の中に突立てる。次の者は、そのねつき のすぐ傍へ、それを倒すやうにして打込む。次の者も、又次の者も、同じやうに、 敵のねつきを倒し、同時に自分のものが安全に突立つやうに、打込むのである。
 このやうに、一同代わる代わる打合つてゐるうちに、地盤が次第に耕されて來て、もしも 誰かが下手に突立てたりすると、その次の者の打込んだねつきのために、倒されることがある。かうして倒 されたねつきは、倒した者の所有に歸するのである。
 ねつきを打込む時、手元が狂つて、横倒れになつたり、頭が淺く突立つて、そのまゝふらふら と倒れたりすることがある。こんなのは、あいぱと云つて、圓の外へ取除かれる。そして、 次に倒した者が、その倒れたねつきと一緒に、あいぱのねつきも取つてしまふ。
 上手な者は、泥だらけのねつきを、一抱へも勝取つて、それを藁縄でからげて、家來に 背負はせて、方々へ轉戦する。
 負けた者は、家の横に積んである薪の中から、手頃なのを引抜いては、新しいのを 五六本拵へて、すぐ戦に参加する。
 
 釘倒し
 ねつき遊びは、十五六年位前までは、十二三歳から十四五歳までの男子の遊びとして、 非常に盛んであつたが、現在では何處にも見ることが出來ない。
 その代り(?)、それに似たもので、釘倒しなるものが出來て來た。
 釘倒しは、その名の示す如く、釘を倒す遊びで、ルールは大體ねつき遊びと同じであるが、 ただ土俵(リング)が、あれは徑二尺の圓であつたのに對して、これは直徑三寸といふ豆 土俵であるのと、あいばは取除かずに置いて、圓外へ弾き出した者がこれを取る、といふ違いが あるだけである。
 ねつき遊びもさうであるが、釘倒しは危険な遊びである。ぴかぴか光る四寸五寸といふ 大きな釘を、二十本も三十本も、多いのになると五十本も、ポケツトにがらがら詰め込んで、 かはるがはる、ぶすっ!と打込んでは、時折かちっ!と音をさせて闘はせる。これが 時々見當が狂つて、人の足などへ突刺さることがある。
 そのほか、手に四六時中生傷が絶えないし、服のポケツトは、裏も表も、穴だらけになつてしまふ。



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五 子供の唄

 1 てまり唄
 手鞠は方言でテンマリと言つてゐる。テンマリ唄には次の如き種々のものがある。
 〇
 イチレツ談判破裂して
 日露戦爭會ひに來る
 サッサと逃げるは露西亜の兵
 死んでも䀆すは日本の兵
 五萬の兵を引連れて
 六人殘して皆殺し
 七月八日の戦ひは
 ハルピンまでも攻入つて
 クロバトキンの首をとり
 東郷大將バンバンザイ
 十一浪子の墓詣り
 十二は二宮金次郎
 十三讃岐の石の下
 十四は四國の金毘羅さん
 十五は御殿の八重櫻
 十六ロク屋の小僧さん
 十七質屋の番頭さん
 十八濱邊の白兎
 十九は楠正成で
 二十は東京二重橋
 
 〇
 どんどうはいやどんどう
 どんどうは二やどんどう
 どんどうは三(サ)やどんどう
 どんどうは四(シ)やどんどう
 どんどうは五い上り
 ざくろは一匁
 ざくろは二匁
 ざくろは三匁
 ざくろは四匁
 ざくろは五い上り
 千萬ざく一匁
 千萬ざく二匁
 千萬ざく三匁
 千萬ざく四匁
 千萬ざく五い上り
 いの
 さの
 月の子
 サァ お出で
 サァ お出で
 私がちょいと
 勝つてもしょ
 負けてもしょ
 お酒の子

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 〇
 おはぐろ沸し一匁ヒイヒイ
 おはぐろ沸し二匁ヒイヒイ
 おはぐろ沸し三匁ヒイヒイ
 おはぐろ沸し四匁ヒイヒイ
 おはぐろ沸し五い上りヒイヒイ
 かみとかし一匁ヒイヒイ
 かみとかし二匁ヒイヒイ
 かみとかし三匁ヒイヒイ
 かみとかし四匁ヒイヒイ
 かみとかし五い上りヒイヒイ
 かたはらひ一匁ヒイヒイ
 かたはらひ二匁ヒイヒイ
 かたはらひ三匁ヒイヒイ
 かたはらひ四匁ヒイヒイ
 かたはらひ五い上りヒイヒイ
 お白粉ねり一匁ヒイヒイ
 お白粉ねり二匁ヒイヒイ
 お白粉ねり三匁ヒイヒイ
 お白粉ねり四匁ヒイヒイ
 お白粉ねり五い上りヒイヒイ
 お白粉つけ一匁ヒイヒイ
 お白粉つけ二匁ヒイヒイ
 お白粉つけ三匁ヒイヒイ
 お白粉つけ四匁ヒイヒイ
 お白粉つけ五い上りヒイヒイ
 頬紅つけ一匁ヒイヒイ
 頬紅つけ二匁ヒイヒイ
 頬紅つけ三匁ヒイヒイ
 頬紅つけ四匁ヒイヒイ
 頬紅つけ五い上りヒイヒイ
 口紅さし一匁ヒイヒイ
 口紅さし二匁ヒイヒイ
 口紅さし三匁ヒイヒイ
 口紅さし四匁ヒイヒイ
 口紅さし五い上りヒイヒイ
 先づ先づ一貫貸しました
 (手鞠をつきながら、「おはぐろ沸かし」とか、「かみとかし」とか、その都度兩手で手早く、 おはぐろを沸す眞似や、髪を梳く眞似を各五度づつ繰返へすのである。)
 
 〇
 一丁目の二番地
 三角山の白ベヱが
 五月の六日
 七りんで焼けどして
 くすり屋へ飛んで行つた
 
 〇
 伊勢 伊勢 新潟
 三河 信州 神戸
 武蔵 名古屋 函館
 九州 東京 京都
 大阪 楢 見物
 
 〇
 一番初めは一の宮
 二また日光東照宮
 三また佐倉の宗五郎
 四では信濃の善光寺
 五つは出雲の大社
 六つ村々鎮守様
 七つは成田の不動様
 八つ八幡の八幡宮
 九つ高野の高野山
 十で東京心願寺
 



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 2 あやとり唄
 お手玉のことを方言でアヤ又はアヤコといふ。アヤとり唄には次の如き種々のものがある。
 
 〇
 いつもたんたん太鼓豆太鼓
 油でしようならトツテモコイヨ
 
 〇
 いつもたんたん武男が嫁とつて
 姉さんそんなこといふもんぢやないよ
 
 〇
 片道向うのお山のボンボン時計が
 鳴つたか鳴らぬか儂(わし)や知らぬ
 トツテモコイヨ
 
 〇
 片道向うの朝鮮帳場が
 立つたか立たぬか儂(わし)や知らぬ<
 コイナ
 
 〇
 お一つ お二つ お三つ お皆んな
 お皆返しておつてんパラリン
 ジョキナ、ジョーキナ
 ジョキモアンメー
 アンメー、アンメー
 アメも大しこ
 大しこ、大しこ
 だいだいびつき
 びき千年から千年
 とつても隣りのお客様に
 一貫も貸せば如何で
 お一つ
 
 〇
 ヂヤカ ヂヤカ ヂヤカ ヂヤカ
 ビードンドン
 印度の土人は色黒く
 支那のチヤンチヤンコはかみ長し
 日本男子は櫻色
 
 〇
 靑葉しげちやん昨日は
 いろいろお世話になりました
 私今度の日曜に
 遠くの學校へまゐります
 あなたもよくよく御勉強
 なされてください
 たのみます
 (楠公父子訣別の歌「靑葉しげれる櫻井の・・・」の節で歌ふ。)
 
 
 3 縄跳び唄
 ひーや、ふーや
 みはたの爺さん
 頭巾コかぶつて
 トツトと走る
 お宮コまゐりの
 爺さん婆さん
 サアお逃げなさいよ
 
 〇
 大波、小波
 風吹いて山
 一ツ二ツ三ツ四ツ五ツ六ツ
 七日で通ふ
 
 〇
 「お嬢さま」
 「お這入り」
 「はいよろし」
 ヂヤンケンポン
 「負けたお方は
 お逃げなさい」



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 〇
 さくらさくら
 彌生の空は
 見渡す限り
 いざやいざや
 もろともに
 
 4 その他
 〇
 昨夜(ゆんべ)産れた猫の仔が
 お母(つか)ちゃんのダンベに爪立てた
 お母(つか)ちゃんは喫驚して醫者招(よ)んだ
 醫者も喫驚してカモ立てた
 
 〇
 お月さまえらいな
 なんて間がいんでしょ
 正直爺さんポチ借りて
 敵は幾萬ありとても
 桃から生まれた桃太郎
 (尻取文句である。)
 
 〇
 嫌だ嫌だハイカラさんが嫌だ
 頭(あたま)髪の眞中に蝶螺(さざえ)の壺焼
 何んて間(ま)が好(い)んでしょ
 
 〇
 南京豆屋のハゲおやぢ
 ハゲも照せば探海燈
 飛行機軍艦よく照らす
 ハゲもヤツパリ役に立つ
 
 〇
 學びの庭に糞(えんこ)垂れて
 校長先生に叱られて
 小使さんにさらはれて
 恥かしい恥かしい共々に



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六 子供の口遊び

 〇
 新しく掘返した畠の土塊の下から、ケラ蟲がよく這ひ出して來る。男の子は このケラ蟲を見付けると、親指と人差指との間にそれを挟んで、
   バア婆のダンベ何(ど)んだけだ?
と問ひ掛ける。するとケラ蟲も心得たもので、短い兩手を三段に擴げて、
   こんだけ、こんだけ、こんだけだ
と答へる。
 
 〇
 兩手の人差指で兩眉を押へ、その指を、兩眼、鼻、兩頬、口、腹、尻の順に 下に進めながら、次の如く唱へる。
 眉毛の殿様
 妾を連れて
 花見に來れば
 方々の人に
 口々言はれた
 お腹が立つて
 お尻がぽん!
 
 〇
 子供と子供と喧嘩して
 藥屋が仲裁(とめ)ても
 なかなか聴かない
 人達(ひとたち)嘲笑(わら)つて
 親達憤(おこ)つた
 (最初の句を言ふ時は兩手の小指を合はせ、次に薬指を合はせ、以下同順に親指で止まる。)
 
 〇
 「××さんー」
 「はい」
 「蠅ならブンブン飛んで行け
 東風(やませ)が吹いたら戻つて來い」
 「××さんー」
 「うん」
 「うんとこどつこいホーレン草
 お前の嬶ア出ン臍!」
 「××さんー」
 「・・・・」
 「××さんと呼んでも返事が無い

 花嫁さんでも取つたのか?」
 
 
 〇
 月(げつ)から
 火が出て
 水(みづ)かけて
 木(もく)さんの
 睾丸(きんたま)
 泥だらけ
 (村に杢さんと稱し奉るお爺さんが居る。このお爺さんは一件が握り飯よりも デカイので有名である。子供達は杢さんの一件を憶ひ泛べつゝこの文句を誦する。)



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 〇
 何處だかの
 ガンベ童(わらし)
 滑つて轉んで
 泣いてゐる
 起してやりたいけど
 ガンベ傳染(うつ)る
  (ガンベは瘡蓋のこと)
 
 〇
 何處だかの
 バン婆(ば)ア
 十八で
 兵隊檢査サ
 行つたつけ
 睾丸無くて
 戻されたとセ
 
 〇
 鳶(とんび) 鳶(とんび)
 油揚(あぶらげ)やるから
 廻れ 廻れ
 (大空に鳶が舞つてゐるのを見て)
 
 〇
 鴉 鴉 勘三郎
 お前の家が焼けたから
 早く行つて水かけろ
 (夕焼時塒に急ぐ鴉を見て)
 
 
 〇
 夕焼 小焼
 明日(あした) 天氣に なあれ
 履いてゐる下駄を飛ばして、表が出たら天氣、裏が出たら雨になる、としてゐる。)
 
 〇
 蟻山火事だ
 米背負つて
 逃げレ逃げレ
 (蟻塚を掘返して、澤山の蟻が右往左往する様を見ながら言ふ。)
 
 〇
 ホ、ホウ、蛍來い
 あま水來い
 行燈の光をちょと見て來い
 
 〇
 蜻蛉(とんぼ) 蜻蛉(とんぼ)
 あま水けつから來い
 (「けつから」は「けるから」、即ち「呉れるから」の意味である。)
 
 〇
 猿の尻(けつ)眞赤赤(まつかつか)
 牛蒡(ごんぼ)焼いてブッ附けろ
 
 〇
 揃た揃たよ奴さんが揃た
 揃たら皆で踊ろぢゃないか
 スットコドッコイイヤサ



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 〇
 左様奈良三角
 又來て四角
 四角は豆腐
 豆腐は白い
 白いは兎
 兎は跳ねる
 跳ねるは蚤
 蚤は赤い
 赤いはホウヅキ
 ホウヅキは鳴る
 鳴るは屁
 屁は臭い
 臭いは便所
 (二人の児童が連れ立つてやつて來る。別れ途へ來て、一方が「さよなら」 といふ。すると他方がそれを受けて「さよなら三角」といふ。更に一方がそれを 受けて「又來て四角」といひ、他方が又その尻を取つて「四角は豆腐」といふ。かうして 交互に相手の文句の尻を取りながら各自の途を遠ざかつて行くのである。)
 
 〇
 陸軍の、乃木さんが、凱旋し、進め、目白、
 ロシア、野蛮國、
 クロバトキン、睾丸、
 マカロフ、褌、締めた、
 高シャツポ、ボンヤリ
 (これも前同様の尻取文句である。)
 
 〇
 昔むんづけて、話はんづけた
 (昔噺をせがまれても氣のすゝまない時の逃げ文句である。下記の二者いづれも然り。)
 
 〇
 昔むン じり着て
 話はン じゃ着て
 行つてしまつた
 
 〇
 昔あつた尻(ケツツ) 婆尻(ばばけつつ)
 豆一升挟(はさま)つた尻(ケツツ) 取つた尻(ケツツ) 
 ガフラ
 
 〇
 赤ベテン子さん凧揚げた
 電信柱さ引掛つた
 お父(と)ちゃんお母(か)ちゃん取つて呉(け)れ
 梯子が無いから取られない
 アーンアーン
 
 〇
 泣きべそ小べそ
 酒屋の狐
 米背負つて逃げた
 (相手を泣かして置いて)
 
 〇
 お前達兵隊さんのカモ見たか
 細くて長くて毛ッコ三本
 
 〇
 兵隊さん兵隊さん
 出雲の國を出る時は
 赤いシャツポにダン袋
 キチミチ喇叭で押掛けろ



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 〇
 政吉けっぱれ
 けっぱれば一銭だ
 一銭でも銭(ぜん)コだ
 
 〇
 よし子、よさん子、はまなし子
 餅搗いて食はせないば
 馬鹿よし子
 
 〇
 坊主(ぼんず)ぼっくり山芋
 煮ても焼いても喰はれない
 
 〇
 加藤清正
 廣東(かんと)豆(まめ)五升食つて
 お腹(はら)が太鼓で
 お尻(けつ)が喇叭で
 プカトンプカトン
 
 〇
 イッチキ、ニッチャ、ニサイソ
 馬の仔ッコ、ツマカニ一本
 タイシキ十(とう)
 
 〇
 イヤ大きに三銭五厘
 (「そんな馬鹿げたことがあるものか」といふ意味の時云ふ)
 
 〇
 ひっちゃん、ひがつく、ひんりゅうの
 ひりき、ひばりき、ひでかいて、ひんぶくろ
 ひっても、ひっても、ひりきれない
 (誰かの面前で、その人に對して何等悪意があるのではなく、稍からかふ 様な気持で唱へる文句である。秀吉とか秀子とかさういふ名の子供に對してはこの まゝで妥當する。併しこれが眞志保といふ名の子に對する場合であつたら頭音の 「ひ」は全部「ま」に代へて、「まつちゃん、まがつく、まんりゅうの、・・・ まつても、まつても、まちきれない」となる。更にこれ三次郎といふ名の子供なら 同じ要領で、「さつちゃん、さがつく、さんりゆうの、・・・さつても、さつても、さりきれない」 となつて、全くのノンセンスである。それでも一向構はないのである。)
 
 〇
 ひっちゃん、ひがつく、ひんりゅうの
 ひりこんまの、ひり男
 ひった、ひった
 (前と同じ)
 
 〇
 一二三(ひふみ)、たまこのち
 めぐらかけっ この十(とう)
 
 〇
 痛かつたら
 いたちの糞
 三年つけれ
 (誰かが何かして「痛い!」と言つた時すかさずかう唱へてまぜつかへすのである。)
 
 〇
 ダルマさんダルマさん
 睨みジャツコやりませう
 笑へば抜かす
 アップ!



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 〇
 ひとり、ふたり、さんめのこ
 よったりめの、糞さらひ
 
 〇
 ど、れ、が、よ、か、べ、か、な、と、な、り、のお、ぢ、い、さ、に、 き、い、て、み、れ、ば、わ、か、る
 (澤山ある物の中から一つを擇ぶ時、かう唱へながら端かラ順々に一つづつ 指さして行つて、最後に指に當つたものを取るのである。)
 
 〇
 死んでも生きても嘘こくな(指切りの唱へ言)
 
 〇
 疣、疣、橋渡れ(他人の手足に箸など渡して)
 
 〇
 俺の齒育(おが)つて
 鼠の齒脱けれ
 (脱けた齒が上の齒だつたら縁の下へ、下の齒だつたら屋根の上へ、投げながら唱へる。)
 
 〇
 南瓜(かぼちや)が芽出して
 花咲いて開いて オッチョコチョイノチョイ
 
 〇
 たけのこへのこ
 おがる次第に 皮剥ける
 
 〇
 どんぐり元來禿頭
 帽子冠れば好い男
 
 
 
 北海道幌別漁村生活誌 終
 
 
 
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